
5-56の法則について
かなり前、たぶん20年くらい前とかそれくらい前から、俺が自転車趣味の世界において個人的に勝手に「5-56の法則」と呼んでいる人間観察のマイ法則がある。5-56というのはホームセンターでお馴染み、クレのCRC5-56のことだ。昔はテレビCMもたくさんやってたし、たぶんお茶の間でもっとも有名なケミカルオイルだと思う。実は2-26、3-36、6-66っていう兄弟もあって、2は電気用、3は機械用、6はマリン用なんだけど、それはこの話とは関係ない。
どういう法則かというと、こんな感じだ。
- 初心者 :好き、使う、馴染み深い
- 中級者 :嫌い、叩く、ニワカプギャー
- ベテラン:好き、使う、馴染み深い
で、具体的にどういうことかっていうのをもっと具体的に書くと、こんな感じ。
- 自転車趣味始めたばかりマン:
わーいいい自転車買ったぞー!なになに、「自転車はチェーンに注油が大事です」だって、うーん、そうだ、5-56なら安売りで買ったのがあるぞ。5-56いいよねプシュー - 自転車にハマって一番熱い時期のわかってるマン:
5-56とかニワカか。ダメだろうが、あれは揮発性の高いオイルで潤滑性能ねーし、攻撃性が強くてシールダメにするぞ。むしろあんなの使うな、5-56とかマジゴミだから。ちゃんとしたチェーンルブ使えよ。オススメは…… - 長年乗ってる人:
5-56?普通にあるよ、安いし、サビ取りにも工具にも使えるからね。え?普通にいい製品だと思うけど。
こういう話って5-56の例に限らず、ていうか自転車趣味の話に限らずいろんなところであると思うのだ。スポーツタイプの自転車に乗り始めてママチャリを一度はバカにするものの、こなれてくるとまたママチャリを再評価するだとか、山登りを初めて3,000m峰に登るようになって一度は高尾や奥多摩のことを忘れるものの、家族ができて低山を再評価するだとか、UKロックを聴くようになって歌謡曲をバカにし出すが大人になってアイドル歌謡の高品質を見直すとか、もっと初歩的なことを言えば、中二病だったり、カルアミルクだったり、まあ、そんなようなことが色々あると思うのだ。
んで、よく全俺で話題になるのは上記2.の状態についてである。
永遠の中二病である自分としては、そういう「やっぱきちんと淹れたコーヒーは美味いよね」みたいなトークは楽しくもあるし、新たに興味を持った新しい趣味においては、そういう知識欲やこだわりの深まりが快感でもある。
でも、俺の中でこと自転車の話については特別で、子供の頃から大好きで慣れ親しんだものであるし、あまり気張ってあれこれ言われると面倒くさくなってしまってどうもダメなのだ。自転車については、常に自由の象徴であってほしいのだ。
ついでに言うと、自転車趣味は開始の敷居が低いという良さがあって、齢をとってから始めるひとも多い趣味だと思うんだけど、そういうお金と余裕のある人達が状態2でブイブイ言わせてしまう状態になりやすいという構造的な事情があって、これが5-56の法則をより厄介な問題にしているのだ。
5-56をチェーンにかけてはいけないよ、という話は正しいし、それでいいんだけども、常に肩肘張って良い製品やすごい活動を主張していないといけない気になってしまうのは息苦しくて、どうも居心地が悪くなってしまうのである。趣味が深まって、より自然なものになって、理解が深まればわざわざ「『チェーンオイルとしての』5-56」を叩くような話題は発生しなくなるわけで、俺はどうも自転車趣味における2.の状態があまり好きではないのだ。もっと寛容になればいいじゃないか。
というわけで、この文章はCRC5-56について語りたいというよりは、5-56への評価を例にして「状態2の面倒くささ」について語るのが主題という回りくどくて面倒くさい話なのだ。
SNSであまり自転車の話をしなくなった理由
長年自転車が好きで、毎日自転車に乗っているし、このブログでも自転車に関連するネタが一番多い。そのほとんどは熱も気合も無いテンション低い与太話なのだけれども。ところが、TwitterとかFacebookみたいなSNSでは、自転車の話をすることがほとんどない。ていうか、現実でも人とあまり自転車の話をしない。別に自転車の話をしたくないのではなくて、むしろ自転車の話が大好きだし、各種SNSを始めたころは躍起になって自転車のネタを投下したり、自転車クラスタをフォローしたり、うわー共通の話題ができる人が増えて楽しいー!なんて思っていたのだけれど、実際のところは毎日常に全力で走っているわけではないし、レースやイベントに出ているわけでもないし、30万円のカーボンロードに乗っているわけでもないし、自転車以外の話だって普通にする。他の趣味だってある。
そうすると、自転車の人たちの中においては自転車の話しかしないのが当たり前だったり、自転車垢作るのが当たり前だったりするところに居ると、「自転車の話をしていなくちゃいけない」「自転車の話だけをしてなきゃいけない」みたいな気分になってとてもつらい。これが単に俺のメンタルがヘルスな問題なのかもしれないけど、頑張ってなきゃいけないのが、なんか、違う。まあ、実際語れるほど乗ってないし、いい自転車を持ってないし、話題が無いからっていうことではあるんだけれども。そんなことを考えてしまうのがイマイチだなあとは思う。
自転車が趣味です、って言うと、よく「すごいロードに乗ってるんでしょ?」って聞かれるんだけど、毎日乗っているのが5,000円で買った折りたたみ自転車だってわかったり、安物の鉄ロードだったりすると結構な割合で会話が止まる。以前はそんなこと考えたことも無かったんだけど、自分の年齢層が上がったせいか、ここ10年のロードバイクブームのせいか、そういう場面に遭遇することが多くなった。「どんなレースに出てるの?」って言われたりするけど、レースやイベントに滅多に出ないのでそこで会話が終わる、っていうことも多い。まあ、趣味って理解を求めるものでもないから、別にいいんだけどね。
でも、自転車は楽しいよ。達成感があるとか、ダイエットにいいとか、エコだとか、交通費が浮くとか色々言われることはあるけれども、ゴールや目的のためではなく、ただ好きなように走って、気持ちが良くて、それだけで十分素晴らしいんだよ。特別なことはうまく伝えられないんだけど、自転車に乗って風が気持ちいいっていうことは自転車趣味の人でなくてもだいたい経験があるはずだから、それでいいと思っている。
最近自転車関連のブログをいくつか読んでて考えてたんだけど、だから、俺は俺の中の5-56の法則で言うところの1番と3番の状態の人のブログがわりかし好きで、まず、自転車にハマってロードで走り始めた人の興奮が伝わる記事が好きだ。それを初心者だとかニワカだとかバカにしようとは全然思わない。逆に、当初のモチベーションやテンションは影を潜めて、ひとり淡々と風景が流れていくようなシブいブログも好き。自転車趣味に慣れてきて、モノ語りやグループ走のお約束のようなものが見えてくるような2番状態がちょっと苦手。
俺のような孤独な自転車乗りって、SNSとかだと構造的にこの「2番の状態」に縛られて色々考えて嫌になっちゃうことが多い気がするんだよね。
ところで実際のところ自転車に5-56ってどうなの
話の本題ではないんだけど、実際のところ自転車趣味におけるCRC5-56ってどうなのよ?というのを書くと、まあ、そもそもチェーンオイルじゃないし、ふつうチェーンや駆動部には使わんから、それでグリスを流すからダメとかシールを侵食するから良くないとか言うのも筋違いだよねっていう感じである。駆動部の注油には専用のオイルを使いましょう。5-56は向いてません。だからといって5-56がダメな製品っていうわけじゃなくて、単に正しい用途は何かっていう話なんだよね。レストアで錆びついて動かないフレームやパーツに5-56攻撃するとか、回らないネジに吹くとか、色々使いみちあるからさ。
でもちなみに、チェーンオイルには向いてない、と言うけれど、使いっぱなし乗りっぱなし屋外放置のママチャリをサビサビで使い捨てする(これは論外な例だが)なんていうくらいだったら、5-56を2週に1度ジャーって吹く方がずっとマシだ。
長時間持続しないけど、雨が降るたびに注油してればサビ防止になるし、洗浄力が強いから掃除にもなって一石二鳥だったりする。シールがダメになる、なっていうけど、5-56の攻撃性でチェーンがダメになる頃にはチェーン自体交換したほうがいいと思う。
もちろん、ヘッドやBBやペダルに掛けたりするのはご法度っていうことで。
話が散漫になったけど、自転車は乗るのもメンテするのも楽しいよ。正しいオイルと正しい空気圧、これだけでもぐっと楽しくなるからこれから自転車趣味を始める人には注油と空気入れの徹底を強力におすすめしたい。
▼一家に1本5-56(※自転車には向きません)
▼自転車には専用のチェーンオイルがオススメ
▼どうしても近所のホームセンターでクレ製品買いたい人はチェーンルブか耐水の6-66にしましょう。
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