エベレスト3D

もう一週間前のこと、久しぶりの休みで一応カレンダー上は3連休だったんだけど、いろいろあってメンタル崩壊しており動くことすら困難だ。ああ、呼吸するのも億劫だ。そうだ、人生は険しい山なのだ。

と、標高-2mの自宅で腐りきっていたら、息子が退屈だからどこか連れてけという。きびしい。こんな時は映画だ。映画館しかない。映画館はいつだって快適だ。空調の効いたシートで快適に過ごそう。

と思ってチケットを買った。ここまではまったく本文とは関係ない。というか、観た映画の内容の高みと自分の低みにあまりにもギャップがあった。人間の夢と幸福とは何なのか考えざるを得ない。

というわけで、観たかったエベレスト3D。109木場、IMAX3D。

すごく色々考えさせられ、ずっと頭から離れないから久しぶりにレビューを書く。



実は、この映画のことを事前にあまり確認していなかった。

・別の映画の予告映像で見た。
・1996年のあの事故を題材にした映画らしい。

というくらいのことしか予備知識がなくちょっと反省したのだけど、予告編でやたらIMAX3Dの迫力映像押しな宣伝を謳っていたし、そもそも「3D」なんて邦題につけちゃうなんてどうなのよ、ということで映像エンターテイメントに振って脚色した作品なんじゃないか、と勝手に誤解していた。

俺あんまし3D好きじゃないし、IMAX値上がりして+800円ってすごい高いよなーとか思いつつ息子と2人分のチケットをポチっとして映画館へ行く。

※観るか観ないかあまり考えておらず情報をまったくチェックしていなかったので、映画的背景についても何も考えてなかった。
後で書くけど結果から言うと、やたらIMAX押しなのは当然だったし、IMAXで観て良かった。3Dがどうこうとは関係ない部分で。

▼公式サイト

everestmovie.jp

 

観終わった感想。すごかった。

けど、「映画」としての評価がどうか、ということついてはなかなか難しい映画だろう。良くも悪くも、とてもとてもリアルな作品だった。

淡々と、淡々と、実際にあった本当のことが描かれていく。脚色せず、人や出来事をよく見せようとも悪くみせようともせず、事実のまま見せる内容だった。
予告宣伝で迫力の映像を押していたということからある程度映画的なデフォルメがされている作品なのかと思っていたら真逆だった。派手なスペクタクルも無いし、必要以上に怖い演出も無い。ただ自然は自然のままそれ自体がスペクタクルであるし、ただ事実としてそこにある山の恐怖そのものが本当に怖い。ある意味NHKのドキュメンタリー再現VTRみたいなものに近い。
登頂した瞬間にグワーッと涙ながらに盛り上げて叫ぶような描写もない。これは実際山や自転車なんかを趣味にしている人はみんなそうなんじゃないかと思うんだけど、遠くまで出かけて山に登っている時って、頂上に着いた=ゴールしたっていう達成感や満足が原動力になるようなものではないんじゃないかっていう気がしている。だから、そのあたりも「盛り上がりがー」とか「抑揚がー」と言うのは違くて、純粋にリアルなんだと思う。

※ヒマラヤの、人の世界を超えた場所へ向かう話とは比べるべくもない話なんだけど、俺みたいな山好きの端くれの端くれでも、結構人に「登って何が楽しいの?やっぱりゴールしたときの達成感?」みたいなことを言われる。ゴールってなんだろう、行動中はわりと「ああやっとついたんだな、帰らなきゃ」みたいな淡々とした感情があって、それを面白さとして説明するのはとても困難だ。

そんなとてもリアルな映画。
なので、山が好きな人ならば5点を付けるだろうし、興味が無い、あるいは登山に否定的な人ならばあっさり1点が付くかもしれない。
映画を観終わってからやっとネットでこの映画のことをいくつか目にしたんだけども、やっぱりシナリオとか設定とか映像の処理に賛否両論出ているみたいだった。でもそれって、この映画っていうよりかそのまま1996年当時のニュースに対する論考そのものってことになるんじゃないのか、って思う、そんな映画。
俺は5点。息子は寝そうになってた。

 

この映画の筋書きについては、ネタバレするまでもなく実際にあったことなので当時のことについて書かれた本や文書を読めば理解できる。この映画の主人公であるロブ・ホールさんのWikipediaと、難波康子さんのWikipediaが簡潔でわかりやすい。
そこに、限りなくリアルなエベレストの美しい映像を載せて再現したのがこの映画。

商業公募隊、いわゆるガイド登山でヒマラヤを目指すことができるようになったこの時代に起こった遭難事故の背景と、その登場人物を描いた迫真のストーリーだ。

素晴らしい風景や、一歩一歩エベレストの山頂を目指す光景は余すところ無く映像で表現されているので、それについては書くまでもなく、素晴らしいから観た方がいいと言うより他ない。

一番考えさせられるのは、主な登場人物であるアドベンチャー・コンサルタンツ隊に代表されるような商業公募隊のあり方、そこに関わる人々の生き方についてかもしれない。この映画には(そしておそらく、事実にも)凄い登山家は登場するけど、彼らはヒーローなわけじゃない。そこに居るのはガイドを生業とする登山家と、客として参加してきた登山家だ。凄い人達だけれど、世界に選ばれたスーパーヒーローではない。夢を追ってきた普通の人達だ。

この「登山家たち」については、特に良く見せようとドラマを描かれているわけでもなく、特別ネガティブに描かれているわけでもない(※南アフリカ隊だけはひでぇと思ったけど)。きっと、本当のこと、本当の姿そのものなのだろう。

世界の頂点を目指す夢、ビジネスとしてそれを実現する現実、(映画には描かれていないけど)おそらくそれを見て様々に語られたであろう事故の是非に至るまで、淡々と、淡々と、しかし生々しく迫る。

なぜ山に登るのか?なんて、かのジョージ・マロリーの名言を持ち出すまでもなく、理屈で説明のしようなんかない。表現のしようもないし、他人のこともよくわからないけれど、でもみんな登りたいから登るのだ。
だから、その問題について共感できればこの映画は最高だし、そもそもそれについて批判的に思っているならばこの映画を見てもやっぱり意味がわからないだろう。

でも淡々と、って何回も書いたけど、頂上に立った難波康子さんが日の丸を立てるシーンにはグッときてしまった。それがナショナリズムのせいなのかなんなのか自分でもよくわからなかったけど、そのシーンはとても美しかった。

難波さんと、難波さんを演じた森尚子さんの演技がとてもとても良かった。かっこよくて、素敵だった。
かっこいいと言っても、ヒーロー的な意味ではたぶんない。彼女は重要人物でありながらも控えめな存在として描かれていて、もしかしたら、どちらかと言えば登山家の箔(というものがあるならば)的には不名誉な言い方なのかもしれないけれど、色々な意味で普通の人だった。ある意味、なぜ難波さんが「セブンサミット」という人並み外れたとんでもないことを成し遂げた登山家でありながら、世間の評価が地味なのかということが垣間見れた気がした。そのあたりも、実力含めおそらくは実際の本当のことがそのまま再現されているのだろう。力強さよりも、普通のエリート会社員(ここまで自力で旅行を組めるエリート会社員が普通かどうかはともかく、冒険家としてはという意味で)の女性が、なぜ山に登るのか?の問いに「6つ登ったから7つ目も登る」と「答えになっていない」回答をしたり、公募登山隊に参加してエベレストを目指す夢の儚さのようなものが逆に胸を打った。自然はあまりに大きくて厳しく、その前で人間はあまりにも小さい。

終盤の悲劇でストーリーの中心となるロブ・ホール隊長と郵便局員のダグさんのやり取りや、奇跡的に生還したベックさん。彼らのエベレストでの結末も「えっ、ホントかよ……」と内心思いながら、「本当でしかないな」と思い直すしかない登場人物の人間らしさ。実際にこれがすべて実話なのだ。「嘘みたいな本当のドラマ」ではなくて「人間ってこういうものだよな」と感じるしかない行動原理。1996年のエベレストでの状況判断はこれが現実だったのだろう。引き返すに引き返せない、諦めきれない状況。止めきれない、付き合うしかない状況。人のエゴかもしれないし、弱さかもしれない、そういう葛藤の結果、世界中の山で多くの登山者が命を落としたんだなって思う。

※あの状況になったら自分もなんとか登りたいって思うのかな、とか、そういう欲の結果、2015年の今エベレストで人が渋滞したりゴミだらけになったりが問題になってるのかな、とか、考えだしたら次から次へと止まらなくなる。

ひとしきりボーっと考え事をしてからふとネットでレビューを見てみたら、案の定「シーンの描き分けがわかりづらい」とか、「人物を深掘りできていない要約版のドキュメント」とか、「あっさりしていて感情移入できない映像重視の映画」とか言っている人が多くて、ああ、まあ、そうだろうな、そう感じるだろうな、と思った。

実際は全然、いやほんとに全然そんなことはなくて、場所や人物の状況理解が難しいのは本物の雪山の状況そのものだろうし、登場人物が山を目指すバックグラウンドや遭難時の状況は、説明しすぎることなく必要最小限の時間(それこそ数秒とか)で要素として詰め込まれていて、無駄に語ること無くしっかり表現されていると感じた(むしろ説明しないとわからない、キーとなる人物何人かの背景については説明シーンっぽすぎって思うくらい)。
滑落や行動不可になるときの状況は、実際に本当に一瞬の出来事なんだろう。エベレストの自然の前に、冷徹に跳ね返される。だから淡々とあっさりしたシーンになるし、そのせいで第三者的には恐怖が伝わってこない面もある。そのあたりがまた逆に怖い。

そんな、リアルで少し難しい映画。面白いと思うには人を選ぶかもしれないけど、俺は観て良かったと思えた。

 

ところで、IMAXで観て良かった、と思った件について。
IMAX隊がかっこよかった。撮影しながら救助に奔走した(そして後日山頂を極めた)IMAX隊すげえ。知らなかったけどこの事故の時、エベレストの風景を映像に収めるためにIMAXのカメラがここにいたのだ。そりゃ、IMAX社が並々ならぬ執念でこだわり、全押しでプロモーションするわけだわ。プロフェッショナルな彼らに敬意を評して、IMAXに800円くらいお布施したっていいやと思った。

 

www.gizmodo.jp

IMAX隊の隊長ブリーシャーズ氏のサイトでエベレストの風景が見られる。
実際に1996年の撮影で作られたドキュメンタリー映画(98年公開)も観てみたい。

あと、高い山に登ってみたい。

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